|| Because the child doesn't know anything ||
モモセは呆然として男を見返した。次の言葉が紡げない。崩壊した思考は考えることを放棄する。
心臓が震え、不意に脚が崩れた。手が伸びてきて、モモセを抱き締める。
――きつく、きつく
もう二度と、この手の内からは出さないと言いたげに。
ぬくもりに息がつまる。
もっと抱きしめてほしいと叫びたくなる。
「ずっと探していた、お前を」
掠れた声が誠実を持って響く。
掻き抱かれる腕のなか、ウルドの顔が見えなくなる。モモセはようやく言葉を思い出した。言わなければなら
ない台詞を見つけ出す。モモセに赦されているのは、たったそれだけの否定の言葉だ。だが納得しているつも
りだったのに、その声音は弱々しい。違う想いが、口を次いで出てきそうになる。
モモセは必死でこころを殺した。
「おれじゃない……」
口調は震える。
これ以上追い詰めないでほしかった。
「お前だよ、モモセだ」
「根拠が、ない。おれのこと、何も知らなかったくせに」
「見たらすぐに分かる。現に分かった。見た瞬間、ああ、俺はこいつを、――モモセを探していたんだと思った」
「――そんなの、」
信じられるわけない――
目を伏せたモモセはそう呟こうとしたが、その言葉が喉から洩れることはなかった。ウルドを気遣っているのか、
――否、違う
信じるべきではない、その意識が働いたからだ。
例えその言葉が限りなく真実に近かったとしても、信じるべきではないのだ。
だから出てきたのは、違う言葉だった。
「……おれは不可触民です」
穢れた穢れた、この命。
産まれるべきではなかったこの命。
いつか思い知る。
ウルドも、自分も。
「……知っている。それこそ、お前を見つけ出すまでもなく。不可触民だと、それでもお前を探すのかと考えて、
考えて、……探さずにはおれなかった。
身分なんぞ関係ない。お前をこの手に抱いたとき、俺はあんなにも安堵したんだから」
「――今に、後悔します」
頑迷にモモセは言いきった。
「モモセ、」
咎めるように呼ばれたが、モモセは頭を振ってそれ以上の言葉が続けられるのを拒んだ。